ついに、サラリーマンの副業が国税庁に狙われました。
このままの改正案なら、金額が300万円を超えない副業は国から「事業所得」でなく「雑所得」として一律に扱われることになるかもしれません。
税の水平的、公平性のために、という理由なのでしょうが、生活に少しでもゆとりが欲しくて始めた副業によって税負担が重く感じられる本末転倒な労働実態を生み出してしまうかもしれません。
2022年8月1日から8月31日まで、国税庁は『所得税基本通達の制定について』として一部改正(案)を行政手続法39条の「意見公募手続」(以下、パブリックコメント)に基づき、広く意見を募集しています。
その中の「業務に係る雑所得の範囲の明確化」(雑所得の例示等)がサラリーマンの副業を狙い撃ちする「かもしれない」案です。
また納税申告は個々別でその申告内容も税務署の判断も変わります。
30年間賃金の上がらない日本のサラリーマンにとって副業は生活向上、いや生活維持のための自己防衛でした。
もちろん、自分の夢のために専業では難しい仕事を副業で、という形で夢を実現している、もしくは実現しようとしている人もあるでしょう。
そうした人々の副業が、このままでは300万円を超えない場合、一律に事業所得でなく雑所得として扱われる可能性が出てきました。
消費税免税事業者が消費税を納めることになるインボイス制度が2023年度10月1日から導入されることで大揉めの昨今、また国税庁は一般国民、それも今度はサラリーマンを狙い撃ちに来ました。
改正案の概要は以下の通りです。
〈業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。〉
〈また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。〉
つまり、この案の通りなら、これまで副業を「事業所得」として申告していたサラリーマンの多くは「雑所得」として申告するか、そうでなくとも「雑所得」と判断されることになります。
「多くは」と書いたが副業で300万円以上を稼ぐサラリーマンというのはごくわずかだです。実際、ごく一部の事業成功者を除けばあくまで副業であり、いわゆる「生活の足し」「夢(独立、専業化など)のため」の額です。
原則的に「雑所得」とは「事業所得」「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「給与所得」「退職所得」「山林所得」「譲渡所得」「一時所得」のいずれにも当てはまらない所得を指します。
しかし、国税庁の言う通り〈その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか〉にあたらないと判断されると「事業所得」でなく「雑所得」となります。
申告は自由ですが、その判断は税務署次第ということです。
もっとも、この「事業所得か雑所得か」の判断はこれまでも難しいとされ、これを逆手にとった脱税が横行したことは事実です。
副業を悪用する連中もいて、申告納税制度を悪用した脱税行為、俗に言う給与所得が9割捕捉されるのに対して、事業所得が6割程度という「クロヨン問題」に乗じて副業で極端な赤字を計上、事業所得として損失を申告した上で脱税、などの手口が知られています。
もちろん大多数のまっとうな副業を手掛ける一般サラリーマンには関係のない話ですが、例えばこの手口はマルチ商法や情報商材系ビジネスなどの末端会員に悪用されてきました。
国税庁も実のところ、こうした連中を詳細に把握するには限界と、今回の十把一絡げとも言える案を出したのではとみる向きもあります。
この改正案が通れば、おおむね「300万円以下の副業は雑所得」として扱われ「事実上の増税」と言われています。
ちなみに「不動産所得」は「事業所得」と別で兼業地主や大家、不動産投資は除外されるため改正案には含まれません。
正当な理由があるのはわかりますが、国税庁は敵に回したくない相手をよく見定めているということでしょう。
それでなくとも日本は国際比較調査で中間層の痛税感が強いとされているのに、その傾向をさらに強めることになります。
この改正案が通れば300万円以下の副業所得は基本「雑所得」となるため「青色申告」はもちろん「損益通算」も出来ません。
「青色申告特別控除」は10万円から65万円まで受けられますが「雑所得」となれば、その特別控除は受けられず、事業種別にもよるが最大税率55%という高い税率を課せられます。
もちろん「特に反証がない限り」というエクスキューズはついていますが、こうした税務署に対しての「反証」がどれだけ有効かは長く自営業をしている方ならご承知のことです。
また、副業の多くは事業所得での申告だとしても白色申告(基礎控除48万円)だと思いますが、青色であれ白色であれ、副業者にとっては後者の「損益通算」ができなくなることが一番厳しいかもしれません。
サラリーマンの副業でも被雇用者としてのアルバイトやパート、派遣労働はこの範疇にない。あくまでサラリーマンである被雇用者が個人の事業として副業を営む場合に限ります。
国は非正規労働者の不足を補いたいがため、派遣労働者を増やしたいがために零細個人事業主や少額の副業サラリーマンを追い詰め、インボイスはもちろん今回の改正案を立て続けに繰り出しているのかもしれません。
そもそも政府は2019年4月から「働き方改革実行計画」として日本のサラリーマンに「金が無いなら勤務外に別の仕事もしてもっと働け」と副業を推進してきました。
政府は、「人生 100 年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要である。また、副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられる。」と言っています。
もちろん「国の税収がもっと増えた方がいいからふんだくれ」という人もいるでしょうし、「副業はお国に奉仕するためだからもっと納めたい」という人もいるでしょう。
ただし、大多数の副業をしているサラリーマンにとってはピンチです。
声を上げなければ、あなたの副業は300万円を超えなければ「雑所得」とされ、最大税率55%の税金を納めることになるかもしれません。
端緒に声を上げないことは、それを認めるということと同じことです。