会社勤めでずっと定年まで過ごした人の中にも驚くほど多くの資産を築いた人は少なくありません。
特に親から遺産相続をしたわけでもなく、会社の中で役員になるといった大きな出世をしたわけではなくてもそういう人は間違いなくいます。
自営業と違って、勤め人の場合、収入に大きなバラツキはありません。ボーナスなどは年によって増えたり減ったりすることはあるでしょうが、毎月の給料は、極端な長時間残業でもなければそれほどブレることはないでしょう。
安定している代わりに収入を大きく増やすということも短期的には難しいのです。
したがって収入がそう簡単に増えないのであれば、支出を減らそうという方向に動きがちです。いわゆる「節約」であり、世の中には「節約術」指南書もたくさん出ています。
もちろん無駄な支出を減らすのは必要なことですし、支出の適正化が大事ですが、やたら節約志向だけに走ってしまうと生活が楽しくなくなります。
特に何かの目的のために一定金額を貯めようということで一定の期間はお金を使うことを我慢することはできるでしょうが、何十年にもわたってずっと節約を続けるというのはつらいものです。
節約よりももっと大事なことが「天引きの習慣」だと思います。サラリーマンのように決まった収入のある人にとってお金を増やすために最も必要なことは、「自分の視界」からお金を見えないようにすることです。
「天引き」というのはまさにそのための方法です。天引きされたお金は見えないままに貯まっていくからです。
天引きは必ずしも投資でなくてもかまいません。単に貯蓄でも良いのです。「でも貯蓄じゃお金は増えないでしょう、やっぱり積立投資の方がいいんじゃない?」と思う人もいるでしょう。
しかし、最初はむしろ投資よりも貯蓄にした方が良いのです。それに「積立投資」というのは資産形成にとってはとても良い方法であることは確かですが、さりとて積立投資だけで大金持ちになったという人はそれほど多くはいません。
積立投資もやみくもにただやれば良いというわけではなく、成功するために考えるべきことと注意しておくべきことはあります。
したがって、最初は貯蓄であってもかまわないので天引きで資金をある程度こしらえておくことはとても大切なことです。天引きで一定の貯蓄額ができた後に積立投資を始めるということでも決して遅くはないと思います。
収入が一定のサラリーマンだからこそ、天引きの習慣を身につけることが大事ですが、もう一歩踏み込んで生活パターン自体を考えてみましょう。
人生においてお金とは「稼ぐ」「使う」「貯める」「増やす」そして「守る」ものです。
億り人になるためにはこれらをどうやってコントロールしていくかが重要なのです。 ただしこの内、最後の「守る」はそれなりに資産ができあがった後の話ですから、これから資産作りをしようというフェーズの人にとってはあまり考える必要はないでしょう。
また、初めの「稼ぐ」、これはとても重要な要素ですが、自営業の人ならともかく、サラリーマンではそれほど急に収入が増えるということはあまりありません。
もちろんどこかの外資系企業にスカウトされて年収が一挙に2倍とか3倍になるという人もいますが、これは誰でもできるわけではありません。
そうするとコントロールに必要なのは「使う」「貯める」「増やす」という3つのフェーズということになります。
この中でまずは「貯める」ということから始めるべきだと思います。すなわち給料をもらったらそのまま生活費に使い、残ったお金を貯めるのではなく、まず最初に天引きで貯めることから始めるのです。
明治から昭和にかけて植林、造園、産業振興等多方面で活躍し、同時に投資によって巨額の資産を築いた本多静六という人がいます。
彼は大学で教べんをとっていたので、自営業ではなく、給与所得者です。彼の書いた「私の財産告白」は今日に至るも資産形成に関する不朽の名著と言っていいのですが、その中で彼は「本多式四分の一貯金法」という考え方を説いています。
月給などの月々決まった収入はその4分の1を天引きで貯金しよう、そして賞与などの臨時収入は全額を貯金につぎ込む、という方法です。
4分の1、つまり給料の25%ですからこれはかなり苦しい生活になるでしょう。そこまでしなくてもいいかもしれませんが、少なくとも1割〜2割は貯金に回すのが良いと思います。
彼はそうやって貯めたお金を投資に回していったわけですが、現代であれば、一定の目標金額まで貯めれば、そこから先は貯金に回していた分のお金を積立投資に回すのが良いでしょう。
一定の目標は人によって異なるでしょうが、年間に必要な生活費の2年分を目処にするのが良いと思います。
昔と違い、今はサラリーマンといえども身分が完全に安泰というわけではありません。
いつなん時、職を失うことになるかわからない。そのことはコロナ禍で多くの人が経験されたことでしょう。
したがって、最低でも年間生活費の1年分、できれば2年分はリスクヘッジのために持っておくべきです。
したがって、まず天引きで「貯める」、そして天引きした残りのお金は「使う」、そう全部使ってもいいのです。
そして一定額まで貯まったら、貯めたお金には手を付けず、それまで天引きしていたお金を「増やす」ために「貯蓄」ではなく、「投資」へ回していく。
こういう生活パターンをできるだけ早い内から確立していくことが大切です。
サラリーマンでありながら40代、50代で「億り人」になった人たちの多くはこのパターンで財産を築いているのです。