米国では「欲しい人材が見つからない」「期待していた人材が次々に辞めていく」「求められる給与に応えられない」人材の確保に苦戦しています。
また、コロナ感染の最悪期を脱した2020年後半以降、企業が営業を再開するにつれ、従業員の確保が必要となっていきました。
そこに待っていたのが思わぬ人材難でした。
営業を再開しようにも、一時帰休となったかつての働き手は職場に復帰せず、新規採用をかけても従業員を確保できない、さらには離職者も急増するといった事態が生じました。
一つの職場で一生働く確率の高い日本では考えられない状況です。
米国ではリーマンショック以降、自発的な離職者数の上昇傾向が続いていましたが、パンデミック以降は過去にない水準に達しています。
民間部門の自発的な離職者数は、コロナが広がった2020年4月には31.2%減の186万人と大幅に減少しましたが、それ以降は増加を続け、2022年4月には418万人にのぼっています。
この「大離職」と呼ばれる現象は、政府のコロナ対策の一環で失業者が手厚い失業給付を受けたことに加えて、コロナ感染を恐れた高齢退職者の増加や移民制限による移民労働者の減少などが主な要因とされています。
さらに、リモートワークの定着で働き手に選択肢が増えた点、パンデミック期間に人々の価値観が変わった点も要因として挙げられます。
だからこそコロナ禍がピークアウトしても従業員が戻ってこないのです。
パンデミック期間に各社が導入したリモートワークは、ワーク・ライフ・バランスの考え方に変化をもたらしました。
リモートワークを機会に、職場からは遠いけれども自分が望む住環境が得られる場所に引っ越す人々が増えました。
職場に通っていた頃にはできなかった家族との時間の確保、あるいはホームエクササイズや庭の手入れなどを仕事の合間に効率的にできるといったメリットを感じるようになったのです。
コロナ明けには職場勤務に戻す企業が増えました。しかし、リモートワークのメリットを経験した従業員の間では、職場勤務に戻るよりは、リモートワークを許可する企業への転職を希望する人がみられるようになりました。
そもそも遠くに引っ越した人は物理的に職場には戻れません。
転職することをよくないと考えている日本人は組織の奴隷となって生きていくのでしょう。条件が悪くても耐えることが美徳とされている国ですから。
最近、電気自動車大手テスラの創業者でCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が、従業員に対し「週最低40時間の出社」、つまり週5日フルタイムの出社を求めたと報じられました。
従わない場合は「辞職したものとみなす」とも述べたようです。
マスク氏のような経営者でも強権を発動しなければならないほど、リモートワークが根付いてきたといえます。
以前から職場環境に不満を抱いていたものの、パンデミックで雇用の見通しが不透明になったためしばらく働いていて、労働市場の好転と共に転職活動に乗り出した人も少なくありません。
不満な職場に戻るよりも、自分に合った環境や条件を提示してくれる企業で働きたい、そういった要求が表面化したと分析する研究報告もあります。
人が足りないばかりではありません。労働需要が供給を上回る状況が続き、人件費の高騰を招いています。
米国を襲っているインフレがこれに拍車をかけています。企業は手厚い待遇を提供しないと従業員を集められません。
中小企業は、好条件を提示できる大企業に人材を奪われることになり、さらに厳しい状況に陥っています。
アトランタ連銀のデータによると、米国の平均時給は前年同期比で2015年から2020年までは各年3%台前半の増加がほとんどですが、2021年には3.8%増、2022年1~4月には6.1%増と急上昇しています。
また、同じ職にとどまっている者よりも転職者の方が賃金上昇率が高く、その差は拡大しています。
こうして企業は「採用難、大離職、人件費高騰」という三重苦を抱えるようになったのです。
日本人は転職して給料を上げようという考えよりも、安くても良いから解雇されなければ今のままで良いという安定を望みます。給料が30年も上がっていないのはこのような価値観に洗脳されていてどん詰まりの状況ではないでしょうか。
人件費の高騰に特に頭を抱えているのが日系企業です。米系企業から高い給与のオファーを受けて従業員が転職するケースが増えています。
また、既存の社員と新規で入社する社員の給与バランスが取れなくなってきているとの問題も生じています。
米国で今起こっている人材難の問題は、日本の企業にとっても明日は我が身かもしれません。