タンス預金は、一見安全なように見えて、インフレが生じるとお金の実質価値減少のダメージをもろに受けてしまいます。
それに比べると銀行預金は利息がつく分、多少はましです。
現在は銀行預金につく利息はないも同然ですが、インフレになれば金利も高くなるでしょうから、インフレによる実質価値の減少を多少はカバーしてくれるはずです。
ただ、急激なインフレが生じたときにそれを十分埋め合わせてくれるかはかなり微妙です。
国債など債券になると、一般的には予想される将来のインフレ率を十分カバーできる水準に利回りが決まってくるはずなです。
理屈のうえではインフレによる実質価値の目減りを埋め合わせてくれそうですが、やはり予想に反するインフレ分まではカバーしきれないという弱点をもっています。
株式投資の価値は何によってもたらされるかというと、まず第一に配当がありますが、もちろんそれだけではありません。
企業の事業活動の結果、利益が上がると、税金や役員報酬を除いたものを株主に配当として還元したり、そうでない場合は株主資本に加えられたりすることになります。
企業の利益は、たとえ配当として支払われなくても、やはり株主のものであるはずの株主資本を増加させ、だから株価も上がると考えられるわけです。
つまり、株式の価値は企業利益そのものから生まれるのです。
インフレが起きてモノやサービスの値段が上がれば、企業の利益も金額ベースでは増えるでしょうから、株価もその分は上がることが期待されます。
また、理論的には、株式投資の期待リターンは金利とリスク・プレミアムで構成されています。
リスクが大きい投資対象での運用は安全資産で運用するよりも平均して高い運用利回りを得ることができ、このときに得られる平均的な利回りの上乗せ分をリスク・プレミアムといいます。
金利は安全資産である債券に投資するときに得られるものですが、株式投資にはそれ以外に、リスク資産としての株式に投資することで得られる追加のリターンであるリスク・プレミアムが含まれます。
このため安全資産である債券に投資するよりも平均的に高いリターンが得られるはずということです。
このことは、株式投資そのものを考えるときにとても重要になる点ですが、株式投資がもつインフレに対する抵抗力の強さを説明する要因にもなります。
まず金利には、先ほども触れたとおり、現時点での将来のインフレの予想値が含まれているので、ある程度まではインフレのリスクを吸収してくれます。
予想外のインフレが生じるとその分は吸収しきれなくなる可能性がありますが、株の場合はまだリスク・プレミアムが残っています。
このリスク・プレミアムまで帳消しにしてしまうようなかなり急激なインフレが生じない限り、インフレのリスクを吸収可能ということです。
たとえばアメリカの株式市場を例にとって1928~2020年の期間でみると、株式投資のリターンは安全資産と考えられる長期国債に比べて年平均で4.8%も高くなっています。
年平均での4.8%の差というのは、10年、20年といったタームで見ると、まさに決定的な差をもたらす要因になります。
単純な複利計算で計算すれば、20年で資産額に約2.5倍もの差が生じます。
日本株の場合はリスク・プレミアムがもう少し低いかもしれませんが、それでも基本的な構造は変わりません。
こうしたリスク・プレミアムの存在が、株式投資のインフレリスクへの耐性を高めます。
残念ながらリスク・プレミアムは、あくまでも長期的、平均的にのみ期待できるものなので、短期的には必ずしもその効果ははっきりしません。
しかし、長期で考えればインフレリスクを補って余りあるリターンをもたらしてくれる可能性が高くなっていきます。
インフレが世界的に急進した1970年代から1980年代初頭を振り返ると、実は株価は低迷局面が続いたのですが、これは主に原油高に起因する原材料高、金利高騰による影響が大きかったと考えられます。
そして、それらの影響が一巡すると株価は大きく上昇を始めました。
つまり、短期的には急激なインフレに伴う業績悪化や金利高騰によって株価が下落することはありえるわけですが、長い目で見れば株価が物価上昇率を上回る率で上昇していく可能性は高いということです。
したがって株式は、基本的にインフレに強い資産だと考えられています。
インフレのリスクは目に見えにくいリスクの一つですが、長期においては非常に大きな影響を持ちます。
そのリスクに備えるという観点からも株式投資には十分な価値があるということになるでしょう。