1970年代、1980年代、1990年代の経済状況と過去20年間の経済状況は異なっていますが、今後の景気循環は、同じパターンをたどるのかどうか心配なところです。
2000年以前の景気後退は、経済過熱の緩和やインフレ率の引き下げのために行われた政策金利の引き上げによって持たさられたものです。
ロシアのウクライナ侵攻は、エネルギーや食品価格を上昇させています。この影響は不透明感が残りますが、2022年の世界のインフレ率を前年比4.7%と予想されています。
ただし、これ以前から、消費者物価指数は、米国、欧州ではすでに数十年来の高水準まで上昇していました。
さらに新型コロナ感染拡大を受けた行動制限の緩和により、資材やエネルギーの不足を招いたほか、サプライチェーンへの圧力が生産コストを上昇させ、最終製品の価格上昇をもたらしています。
コロナ禍で、米国では2兆ドル程度まで貯蓄が積み上がり、欧州でも同程度の貯蓄があると見込まれています。この貯蓄が、エネルギー価格の上昇の影響を相殺するのではないかとという専門家もいます。
しかし日本の場合は、年金などの将来不安が払しょくできない限り、貯蓄を切り崩すというよりは消費を抑える方向の力が強いため、景気は冷え込む可能性が高いです。
2022年内にサプライチェーンは徐々に正常化するとみられており、ロシア・ウクライナ情勢が安定化した場合、コモディティ価格も落ち着くといわれています。
インフレ圧力の緩和に伴い、世界のインフレ率は2023年に2.8%に低下すると見込まれており、ロシア・ウクライナ侵攻が起こる前に想定していた見通し2.7%と同水準と推計されています。
ただ、足元のインフレ圧力の拡大は、一部の主要国経済でみられており、特に米国では、賃金・物価スパイラル的上昇が懸念されています。
米国消費者物価の構成項目の約80%が前年比4%以上に上昇しています。つまり、足元でのインフレは、供給制約よる一時的なものだけではなく、超過需要も反映されていると考えられています。
賃金・物価スパイラル的上昇への懸念は、1970年代のインフレの経験とよく似ています。1970年代は長期にわたり、原油価格の変動が激しい局面が続き、欧米で賃金上昇につながりました。
スタグフレーションは、経済成長の減速とインフレ率の加速が同時に見られることであり、結果として景気後退につながる場合が多いとされます。
仮にロシアがウクライナ侵攻を継続し、東欧(ポーランド、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア)とバルト三国との緊張を高めるというシナリオがあります。
こうなるとコモディティ価格の上昇が、インフレ率をさらに上昇させ、消費者や企業の重しとなることから、経済活動の大幅な減速につながります。
これにより、世界経済成長は低迷、インフレ率上昇という、さらにスタグフレーションが進む環境となります。消費支出の低迷が景気後退につながる可能性もあります。
消費支出の低迷を引き起こす要因となり得るリスクは、供給制約が、支出の増加を妨げることです。
車などの大きな買い物は、供給が不足しており、またアジアを中心とした多くの地域では、いまだ旅行には制限があります。これは、供給が追い付くまで、経済にさらなる穴をあけることにつながります。
また、消費者が貯蓄を支出に回す選択をしないと、過去においては、高いインフレ率とアグレッシブな金融政策の引き締めが、消費を低迷させ、景気後退に陥っています。
ただし、これまでのところは、パンデミックで積み上がった貯蓄の存在が、過去の景気循環との主な違いであるといえます。