格差の大きい社会とは不健康な社会であるということです。貧困に直面している人だけでなく、それ以外の人にも次のような悪影響があります。
・格差の大きい社会では分断が生じ、ストレスが高まり、病気になる確率が増える。
・追いつめられて犯罪を犯してしまう人が増えるため、犯罪被害にあう確率も高まる。
・社会全体から連帯感が失われていき、助け合いによって問題解決する雰囲気がなくなる。
格差の問題については意識の問題があります。「自己責任論」が強まると、所得再分配を行うことが難しくなるからです。
「貧困になったのは努力しなかったからだ」という質問に対して、資本家階級は、「とてもそう思う」「ややそう思う」の合計が47.1%、中間階級でも42.1%というデータがあるようです。
対して貧困層では、37.3%だったそうです。資本家階級で自己責任論が強いのは理解できます。
ただ、比較的恵まれた中間階級でも自己責任論を肯定する傾向が見られます。
これは格差是正の方向に逆行した考えです。
こうした考えを持った人々がある一定数存在し、日本〇〇の会などの政党を支持する層が出てきていることです。
自己責任論にはプラスとマイナスのふたつの側面があります。
プラス面:自分が恵まれているのは自分のおかげ、自分が努力し、能力があったから
マイナス面:自分が貧乏なのは自分のせい
中間階級はこれまで勉強や仕事で成功してきた人たちで、自身の成功をプラスの側面で考えます。「自分の地位や財産は自分で築いたものだ」という見方です。
この層は論理的に考えるため、いま世の中にある貧困について「貧しいのは本人の責任だ」、「そうしておかないと分配政策によって自分たちの地位や財産まで脅かされる可能性がある」と考えるからです。
こうして、強い自己責任論が成立します。
戦後民主主義の中で、これまでは弱者との連帯、弱者への共感があったといわれています。そうしたものの見方が、高学歴な高所得者から急激に失われてきています。
正社員VS非正規労働者といった構図が出来上がっています。
とはいえ、中間階級も一枚岩ではありません。自己責任論を肯定する人がいる一方、リベラルで所得再分配を肯定する人もいます。
戦後日本の歴史を振り返ると、中間階級が格差是正に貢献してきました。戦後初期には、ホワイトカラー(事務系労働者)がホワイトカラーとブルーカラー(肉体労働者)の労働条件格差を是正する運動をけん引しました。
その他にも、平和運動や民主化運動、環境運動などでも中間階級の人たちは、運動の中心として役割を果たし、比較的リベラルで所得再分配を支持する傾向があったと言えます。
しかし、ここ10~20年で、中間階級の中で意識の変化が生まれ、自己責任論を肯定する人が増えています。ただ、今でも「リベラル派」に分類できる人は半数近くいます。
こうした人たちが貧困層の問題に興味を持って政治参加すれば状況を打開できる可能性があります。
今の野党第一党の立〇民〇党では期待できそうもないですが。
貧困とは、社会の構造によって生み出されるものであり、責任は個人ではなく社会にあるともいわれています。
2009年の政権交代の構造を分析すると、民主党を強く支持していたのは大企業の正社員が多い中間階級でした。
政権交代を実現したのは中間階級のリベラル派の人たちであるとも言えます。この階級が政治に参加すれば状況は変えられるはずです。
ただ、今の岸田政権の目指す新しい資本主義は自己責任論を修正しようとしていることに間違いはなさそうです。
自己責任論は、努力した者はその結果として裕福になり、努力しなかった者はその結果として貧困に陥るという考え方です。
過度な自己責任論が広まってしまうと、経済格差がより広まってしまいます。
労働組合の中心にいる連合は大企業の正社員が中心で格差問題に対する動きが鈍いという批判があることは事実です。
連合は、野党よりも、岸田政権にすり寄っている気配もあります。
組合員に対する啓蒙活動とともに、正規・非正規の格差是正により踏み込んで取り組めるのかは疑問です。